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ヴァラトヴァ司祭の弟子が風邪をひいたらしく、今日中に里から追い出すのが難しくなったと、クラムがカイジと話しているのを聞いてしまった。
シオナはつい、里の人向けに調合することがある風邪の薬の材料を思い浮かべてしまう。
材料の干した薬草などは家にある。
これも代々の司祭の残した書物から調合や薬草の種類などを学んだのだが、クラムは薬の調合は余り得意ではないようだ。
シオナが薬の調合を覚えてからは、里人からの依頼を一手に任されるようになっていた。
一回分の風邪薬を作っても、クラムに薬草が減ったことには気付かれないはずだ。
シオナは台所にクラムがいないことを確認すると、こっそりと風邪薬の調合を始める。
少量の水と干した薬草を砕いたもの、甘みのある根を干したものを鍋に入れて、薬草がどろっとするまで煮詰め、根を取り出したら水分がなくなり一つに纏まるようになるまで火にかけながら練る。
一つに纏まった薬を匙に取ると、鍋や道具を片付ける。
薬の乗った匙を蔓草の皮を撚り合わせて作った布で包むと、シオナはこっそりと家を抜け出した。
里長の家は里の中心近くにあり、低い塀に囲まれている。
薬を作ったものの、どうやったら里の者に見つからずに渡せるのかは見当も付かなかった。
シオナは取り敢えず里長の家に向かうべく、なるべく人目に付かない里外れの木のある方から回り込むことにした。
奇しくも、今朝弟子の少年と会った辺りに差し掛かった途端、シオナは目を見開いて足を止めた。
空から淡く輝くような青色の光に包まれた龍が舞い降りてきて、何かを探すように首を左右に振っている。
龍は、降りてくるに連れて身体が縮んでいき、シオナの見守る目の前まで達すると、小さな蛇程の大きさになっていた。
「神様?」
小さく震える声が思わずシオナの口から漏れた。
口にしてしまってから、追い付いた思考に、シオナは慌てて膝を折って額を地面に擦り付けた。
『ほう、我の姿が見えるか。 ・・・しかも、これはまた見事な。』
シオナは龍の言葉に内心首を傾げた。
そっと頭を上げると、龍がシオナの周りを飛び回っている。
「あの・・・」
困って声を掛けると、龍はシオナの目の前に来て止まった。
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