第2章 ヴァラトヴァ司祭と弟子

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『何だ、弟子の方か。』 ヴァラトヴァ司祭に薬を渡し終えてほっとしたシオナは、龍が零した言葉にその存在を思い出してそちらを向く。 「お風邪を引かれたお弟子さんにお薬を作ったんです。」 龍にそう返すと、龍は身体をくねらせながら司祭の方に飛んで行き、その周りを回り出した。 『ぴんぴんしておるように見えるがな。大方あれに仮病でも強要されておるのだろうよ。』 シオナは話しが見えずに首を傾げる。 『まあどうでも良いが、あの生意気な、いやもとい、司祭の癖に腹黒い、いやあれでも務めには忠実よの。あーなんだ、あれのところに案内せい。』 龍は司祭に向かって言ったようだったが、司祭はシオナの方を(うかが)いながら、辺りを見回している。 龍が、見えていないのだろうか。 「あの・・・司祭様、周りを飛んでおられるお方がいらっしゃいますけど。」 控えめに指摘してみると、司祭は目を見開いて首を激しく動かす。 『そうか、未だに我が見えんのか。』 龍が呆れたような声で零す。 良く分からないが、龍は司祭とどうやって意思の疎通を図るつもりだったのだろうかと、シオナは苦笑する。 「あの、何がいらっしゃるのか聞いてもいいかな?」 司祭が控えめに問い掛けてきた。 「小さめの龍のお姿の方です。神様のおひとりではないかと思います。」 説明してみると、司祭は焦ったような顔になった。 『まあまあな説明だな。我はヴァラトヴァ神が眷属のヴァルイトだ。』 シオナは名乗ったヴァルイトに目礼して、自らも名乗る。 「シオナと申します。セネルト様の司祭クラムの養女です。」 「お姿も声も聞こえませんが、私はヴァラトヴァ神にお仕えする修行を積んでおりますカラトと申します。もしや、私の連れの者にご用ではありませんでしょうか?」 カラトが視線を泳がせながら言うと、ヴァルイトがシオナの方を向いて頷いた。 シオナに会話の仲介を頼むつもりのようだ。 「カラト様、頷いておられますよ。」 「彼を今ここへお連れするのは難しいのですが、里長の家にお連れして万一誰かにお姿を見られるのはまずいような気がします。」 頷いて続けたカラトの言葉には何となくシオナも同意見だ。 『そうだな。だが、その必要はないかもしれぬな。きな臭い風が吹いてきたわ、あれの気配を連れてな。』 ヴァルイトがカラトから離れて舞い上がった。
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