第3章 偽りの契約とヴァラトヴァの裁き

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指に絡みつく細い髪の毛が、幾度振り払っても取れない。 その内、髪の毛に血が滲み出てきて、手が真っ赤に染まっていく。 その血が、あの女のものなのか、自分の手が切れて滲んだものなのか、分からなくなってくる。 狂ったように手を振り回して、クラムはいつもの夢から覚醒した。 あれから、もう十年以上経つのに、時折あの時のことを夢に見る。 これを払拭出来るのは、あの時だけだ。 あの女の娘の髪を切ると、さらりと流れる髪は絡みつくことなく、すぐに指から離れていく。 生きた者から切るからか、それとも神でさえ欲しがるあの娘の髪が特別なのか、クラムにとってあの儀式は、里に雨を齎らすのと同等かそれ以上に大事なものになりつつあった。 邪魔者は消す、今更躊躇うほど綺麗な生き方はしてきていない。 今の地位、立場、住処、暮らし、全てを守らなければならない。 クラムは、部屋の床板をずらして、そこに隠してあった大振りのナイフを取り出した。 それを服の内側に隠し持つと、家から出た。
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