第3章 偽りの契約とヴァラトヴァの裁き

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複数の足音がスセンの眠る部屋に近付いてきたのは、カラトが薬草を探しに出掛けて、しばらく経ってからのことだった。 突然、荒々しく戸が開いて、男が二人踏み込んでくるのを、スセンは弱々しく目を向けましたの体で迎える。 家を出たカラトと残ったスセン、どちらに食いつくかと思えば、やはり明らかに弱そうに見えるスセンの方にきたようだ。 カラトには念の為に背負い鋏を持たせているし、ヴァルイトが戻ってくる里外れに誘導しておいたから、いざとなれば何とかなるだろう。 それに、スセンには奥の手がいくつかある。 部屋に踏み込んできたのは、里長の息子カイジとセネルトの司祭と名乗る男クラムだ。 「起きろ!」 近付いてきたカイジに無理矢理身体を起こされる。 「何ですか?」 気怠げな弱々しい声を装って返すと、カイジに胸倉を掴みあげられた。 首が締まらないように身体をずらしながら、苦しそうに咳をする。 「貴様らが本当にヴァラトヴァ司祭かどうか確かめてくれる。付いて来い!」 そうきたか、と頭の中で考えながら、スセンは力無くカイジに従う振りをした。 カイジとクラムの二人は、それでも何かに警戒しているのか、人目につかないように裏口からスセンを連れ出すと、里外れの方に向かって行った。 カラトと鉢合わせることだけは心配だったが、途中から里の裏手の岩山のほうに向かいだしたので、安心した。 しばらく行って、岩場の開けた辺りにくると、カイジはスセンから手を放した。 代わりにクラムが近寄ってきて、服の中から大振りのナイフを出してこちらに向けてきた。 「カラト司祭とか言ったか? お前の師匠が本当にヴァラトヴァの司祭だと証明できるものでもあるのか?」 スセンは考える振りをする。 答えは決まっている、証明出来ない、そもそも、カラトは司祭ではないのだ。 これがスセンはだとすると、いくつかこの場で見せられるものもあるが、信じるつもりがなければ何を見せても一緒だろう。 それよりも、彼らの探り方が気になる。 こんなところまで連れて来ておいて、スセンの命を奪うつもりなのは間違いないが、カラトが本当の司祭かどうかに自信がないのだろう。 その上、殺してしまうことが決定事項なら、逆に証明出来るものをスセンから聞き出して、カラトから取り上げてしまえば、如何様にも始末できるという腹だろう。
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