第3章 偽りの契約とヴァラトヴァの裁き

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里の裏手には岩山があって、足場が悪く、見通しも悪いので、里人は余り足を踏み入れない。 シオナも本当に一人になりたい時に、岩山の入り口辺りに座り込んだりすることはあったが、奥には進んだことがない。 ヴァルイトにカラトの弟子のスセンが里の者に連れて行かれていると聞いて、シオナはヴァルイトの導きでカラトと共にこちらに向かって来た。 カラトはスセンを心配しているのには間違いないのだが、その心配の仕方が風邪をひいた弟子が連れ去られたから、取り戻さなければいけないといった鬼気迫った様子ではなかった。 スセンのことを話すカラトは、弟子として守るべき存在という意識が全くないようなのだ。 体調が心配だということも話題にしないし、ヴァルイトも仮病がどうのと言っていたし、何か理由があって風邪を引いた振りをしていたのかもしれない。 カラトとスセンのことは、正直言ってシオナには良く分からない。 それでも、里の者に連れ去られたというのが気になる。 一体誰がというのには心当たりがあるし、どういうことなのか、確かめておきたいと思った。 「ごめんね、少し止まってくれるかなシオナ。」 突然、改まった口調で呼び止めたカラトに、先を歩いていたシオナが立ち止まって振り返る。 「今更だけど、俺は君のことを信用していいのか、このまま付いて行っていいのか良く分からない。」 シオナは目を見開いた。 「君が言うヴァルイト様も俺には見えない、だけどヴァルイト様の名が出てきた時点で、あの人が何処かに噛んでるんだろうとも思うし。」 シオナはカラトが何を言いたいのか分からなくて、思わず僅かに顔を顰める。 「取り敢えず、ちょっと誤解を解いて整理しておきたいんだけど・・・。実はヴァラトヴァの司祭なのは、俺ではなくスセン様の方なんだ。俺の方が彼の弟子なんだよ。」 シオナは、言葉の意味を理解して固まる。 確かに、スセンのあの鋭い目は、司祭の只の弟子には見えないが、カラトの穏やかな態度と話し口調は安心出来て、クラムとは雰囲気が違っていたけれど、司祭としていいと思っていた。 だが、お陰で納得のいったこともある。 ヴァルイトの探し人は、始めからスセン司祭だったのだ。 これは多分、スセンを連れ出した里人には気付かれていないとしたら、この誤解はいい方へ働くのだろうか。 シオナは少しばかり、焦燥に駆られたような心持ちになった。
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