第3章 偽りの契約とヴァラトヴァの裁き

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迫り来るクラムとナイフに、スセンはどうしたものかと考える。 ある程度の前情報があってルトの里に来たのだが、スセンの渡した情報から新たな確証や罪状が見つかったのかは今のところ分からない。 直接炙り出す余裕を与えてくれるのか、最悪実力行使後の自白か取り調べということになる。 そうなると、スセンの神殿での地位をある程度晒すことになり、出来れば避けたい筋書きだった。 「何も言えないということは、あのカラトという男は正規の司祭ではないということだな?」 睨みを利かせて問うてくるクラムにスセンは首を振る。 「どうして僕達がヴァラトヴァの司祭と弟子だってことを疑うんですか?」 「知れている、ヴァラトヴァ司祭には偽物が多い。里の大事な儀式の時に邪魔をしてまで留まろうとするのは、偽物らしく何かの儲け話でも嗅ぎ当てるつもりだろう!」 クラムの言い分は、当て擦りもいいところだが、中には筋が通っているところもあるので、スセンは思わず感心してしまった。 「背負い鋏を負ってたでしょう?」 「それだけか?」 口調とは裏腹に、クラムの目が輝いて、ナイフが近づけられる。 「待って、本当のヴァラトヴァ司祭だって言ってるのに、どうして僕を殺そうとするの?」 「証拠がないからだ。確かな証拠があったなら、面倒だから追い払うだけにしたがな。」 答えたのは、こちらも少し近付いていたカイジのほうだった。 「邪魔なのだよ、今ここにヴァラトヴァ司祭などに居られては。まして、要らないことを嗅ぎ付けられたりしては。」 続けたクラムの言葉に、スセンは驚いた顔をしつつ、内心では親指を立てたいところだった。 言質をとるのも、大事なお仕事である。 「嗅ぎ付けてって、何を? 雨乞いには何かあるの?」 絶対的な優位を確信しているはずの彼らから、なるべく多くの情報を引き出すべく、スセンは慎重に誘導していく。 「お師匠様は、雨乞いについて何か探り出して来いとでも言ったのかな?」 スセンは口を(つぐ)む振りで二人を窺うと、カイジが嫌らしい笑みを浮かべながら側まで寄って来て猫撫で声で言う。 「雨乞いの時期でなければ、生きて出られたろうに。」 スセンは怯えた振りでクラムを見上げる。 「この里の雨乞いに失敗はない。あの女の娘が生きている限り。」 クラムのこの言葉で、スセンの中に冷たい何かが生まれた。 賽は投げられた。
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