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「その子の母親を殺しておいて、ですか?」
スセンの冷たい声にクラムの目が見開かれた。
スセンの口調と表情ががらりと変わったのに気付いたクラムは、僅かに身を引く。
「何のことを言ってるんだ?」
軽く青ざめたクラムとは違い、カイジは余裕を失っていない様子で、スセンに更に近付く。
「10年と少し前、カラの街のセネルト神殿から、ルトの里に向けて一人の巫女とその子が旅立ちました。その巫女は、ルトの里の側にある祠にセネルトの眷属たる神を呼び戻す役目を負っていました。」
話し始めたスセンに、流石のカイジも目を見張る。
「巫女の名はキリナ、その子シオナは三つになるやならずやの幼子であったそうです。」
身を固くして聴き入っているクラムは、存外罪悪感を感じているのかもしれない。
「キリナはカラの街を出てからの道中で音信不通に。ルトの里で祠の守人をしていた司祭カロムからは幾度か弟子のクラムの代筆で手紙が届いたそうですが、その後連絡が途絶えてそのままだそうです。」
スセンはゆっくりとクラムとカイジに目をやる。
二人の様子は対照的だった。
青ざめた顔に脂汗を滲ませたクラムと、悔しそうな顔でそれでも何か打開策を捻り出そうとしているカイジ、だが二人共張り詰めた糸が切れた時、こちらに襲い掛かってくるだろう、ということは確実だ。
「慢性的に人手不足なセネルト神殿が、調査の為に人を出すとは思わなかった、というところでしょうか?」
スセンは背筋を伸ばして、服に付いた砂埃を払う。
「そう言う貴様は何者だ?」
カイジが腰に差していた短剣の柄を握りながら振り絞るような声を出した。
「ヴァラトヴァの正司祭スセンです。と言っても信じる気はないのでしょうね、背負い鋏は弟子に預けてありますし。」
静かに、だが挑発するような目を向けると、カイジの口の端が僅かに吊り上がった。
「証拠もないのに餓鬼の言葉を、誰が信じる。」
クラムがその言葉にノロノロと顔を上げた。
「始末すればいいのか? そうすれば、元通りか?」
「そうだクラム、この餓鬼を消せばいいんだ。」
決定打を打った二人に目を向けたまま、スセンは懐を探った。
躊躇う余地もない程に、許されざる罪人だ。
久しぶりに本来のお仕事の時間が来たようだ。
スセンは覚悟を決め、右手が目的のものを探り当てる。
「待って!」
耳に飛び込んできたのは、シオナの声だった。
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