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「待って!」
何故飛び出してしまったのか、自分でも分からなかった。
シオナは三人の横手で気付けば声を張り上げていた。
誰に対してなのか、何を止めたかったのか、鈍った思考では測り切れなくなっていた。
「スセン様、済みません。」
カラトが横を通り過ぎて、スセンの方へ向かって行く。
気付いたスセンがカラトに向かって手を伸ばすと、カラトは背中に負っていたものを外して、帯ごとスセンに渡していた。
「どうして、あの娘を連れてきた?」
「成り行きです。俺にはヴァルイト様は見えませんから。」
溜息混じりのスセンの問い掛けにカラトが答えているその周りを、ヴァルイトが漂うように飛び回っている。
それにちらりと目をやって小さく舌打ちしたスセンには、やはりヴァルイトが見えているようだ。
ではと思って残り二人に目をやったシオナは、向けられたことのないギラついた目でこちらを睨むクラムとカイジに、思わず後退った。
「子供二人と若造一人だ、知られたからには殺ってしまおう。」
カイジの言葉が冷たく響く。
頷いたクラムが大振りのナイフをこちらに向けた。
そのクラムとシオナの間に、スセンが滑り込んでくる。
その手には、一振りの少し変わった形の大振りの両手剣が握られていた。
「話しは終わっていません。・・・貴方がたは偽りの契約を強要したこと、正しく行われるべき契約を阻害し、その者の命すら奪ったこと、そしてヴァラトヴァ司祭である私を害そうとしたこと。これらの罪をもって、ヴァラトヴァ神の代行として貴方がたに裁きを与えます。」
スセンによって、厳かに宣告が行われた途端に、彼の手に持つ剣の中心辺りから、銀の光が生まれる。
ナイフを握るクラムの手が震えだす。
カチリと音がして、スセンの剣が二振りに分かれた。
それを彼は一振りずつ左右の手で握る。
二振りの剣は片刃で、スセンはその刃がどちらも内側を向くように構えている。
「カラト、この娘を連れて下がっていなさい。」
スセンはクラムの方を向いたまま、カラトにそう声を掛ける。
ヴァルイトを纏いつかせたカラトが近付いてきて、シオナは促されるまま、隠れていた岩の側まで後退った。
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