第3章 偽りの契約とヴァラトヴァの裁き

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「お待ち下さい! ヴァラトヴァの司祭様!」 岩山を登ってきながら、声を張り上げたのはカイジの妻のニコノだ。 ニコノと一緒に里長のカガル、それから何故か旅の商人二人が付いてきていた。 シオナはその様子を確認してからスセンの方に目を向ける。 ちょっと目を離した隙に、スセンはカイジの短剣を取り上げて、右手を捻りあげていた。 先程までは明らかに斬り捨てようとしているように見えたのに、声が掛かったことで方向修正されたのだろうか。 シオナは小さく首を傾げた。 そうしている内に四人がカラトのところまで来て、惨状を見渡した。 「ヴァラトヴァの司祭様、どうかこの度のご無礼をお許し下さい。」 ニコノがカラトに向かって言うと、商人の一人が側に寄っていった。 「ニコノさん、司祭様は多分その人じゃなくて、あちらのお若い方ですよ。」 皆の視線に釣られて目を向けた先で、これまたいつの間にか、スセンがカイジの腕を後ろに回して捕らえていた。 両手に持っていたはずの剣も背中に収納済みのようだ。 「ヴァラトヴァの正司祭様! お疲れ様です!」 ニコノに訂正した商人が、スセンに近寄っていく。 何故かスセンが物凄く嫌そうな顔をした。 「それで、色々聞き出してくれましたか?」 スセンの様子など物ともせずニコニコと問い掛ける商人に、スセンの方はプイッとそっぽを向いた。 「前情報通り、二人を殺害したのは間違いなさそうですね。後はそちらにお引き渡しした方が宜しいので? セネルトの。」 シオナはその内容に目を見開いて商人を見詰める。 「いや~、若いけどやり手だって聞いてた通りですね。私はリシム、セネルト神殿の諜報のお手伝いをしている商人です。もう数年掛けてこの里を探ってたんですが、尻尾が掴めなくってですね~」 ニコノが息を飲むのが聞こえた。 「追っ付け神殿から調査の為に人が来ることになってます。っかし、どうやってあんなに早く神殿に調査報告上げられたのかは不明ですが、お陰様で早急な解決を見られそうです。」 シオナは未だカラトの側を漂っているヴァルイトに目を向ける。 この中でもヴァルイトが見えるのは、シオナとスセンだけのようだ。
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