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話しも一段落ついたようだし、シオナは自分の問題を何とかすべきだと足を踏み出した。
縄で縛られて座り込むクラムの方へ歩いていく。
カラトは今度はカイジを縛りにいったのか、もう側には居なかった。
「行倒れた母から私を託されたというのは、嘘ですか? セネルト様の司祭ではなかった貴方は、雨乞いの儀式など行う資格はなかったのに、私は何に、何の為に髪を捧げ続けていたんですか?」
言葉は取り留めもなく紡がれていく。
「私は何の為に、この里で飼われていたのですか?」
沸き起こった不信感は止めようが無く、そんな言葉すら口を突いて出てくる。
不意に頭に優しく重みが加わる。
布越しに頭を撫でられたのだと気付く。
ふと見上げると、スセンの優しいが揺るぎない灰茶色の瞳が見つめ返してきて、はっと目を見開いたシオナは頬に涙が流れたのに気付いた。
スセンは徐に、シオナの髪を隠していた頭の布を外し始めた。
驚いてシオナの涙は止まってしまう。
どこからか、小さな騒めきが起こった。
「もう隠す必要はないんですよ。貴女はヴァルイトが見えている。違いますか?」
スセンの問い掛けにシオナはただ頷く。
「紛う事なき巫女体質です。そんな貴女が素人仕込みの形ばかりの馬鹿げた儀式に手を貸す必要はありません。」
シオナはただ惚けたようにスセンを見つめ続ける。
「こんなに美しい髪を隠し続ける必要など始めからなかったんです。それは、貴女を雨乞いの娘にしておく為に彼らが強要したことに過ぎない。」
シオナの髪がはらりとこぼれ落ち、肩に背中に流れて行く。
溜息のような吐息が漏れる音が聞こえてくる。
「貴女は自由です。雨乞いにも、セネルトにも、もう縛られることはない。自由に自分の進む道を選びとっていくことが出来るのですよ。」
それは魅惑的な、でもシオナには少しだけ厳しい言葉であるように聞こえた。
里の、クラムの庇護を受けないということは、これからは後ろ盾を無くし、一人で生きていかなければならないということだ。
スセンはどうしろとは口にしない、そうも出来ると示唆したのだ、ということは、シオナは生まれて初めて、選択を迫られているのだと気付いた。
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