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クラムの居ない家で眠り、髪を隠さないまま部屋を出て、食欲のないまま朝食を流し込み。
シオナは改まった気持ちでセネルト司祭の家を出た。
これからどうしていけばいいのか、考えても考えても、答えは出なかった。
クラムとカイジは、里長の家に、スセン達や商人達の監視の下、セネルト神殿から派遣されて来る司祭の到着を待ち監禁されることになった。
里中が大騒ぎになったが、ヴァラトヴァの正司祭であることを明かしたスセンと、セネルト神殿の諜報員である商人からの事情説明と説得で取り敢えずその場は収まった。
里長がただ堪えるように黙っていたことも、功を奏したようだ。
カイジの方は普段の素行から皆も納得したようだが、クラムがシオナの母と前司祭を殺害し、不当に司祭に成り代わったことには疑問の声を上げる者が多かった。
それに、雨乞いはどうするのだと里人達に危機感が広がった。
そこでも一喝、皆を黙らせたのは、スセンだった。
彼は、本当に雨乞いを望むのならセネルト神殿かリダネラ神殿に正式に申請を出しなさいと。
誰かがシオナの名前を出した時には、であればシオナに強要するのではなく、お願いしなさいと言って遮ってくれた。
シオナにとっては、初めて皆の前で自分の存在を肯定された瞬間だった。
嬉しくて堪らなくて、涙が溢れた。
それでもシオナも、里の干ばつが気にならない訳ではない。
これまで育ってきた場所で、どんな制約があろうとも、生きる為の全てを与えてくれたところなのだ。
でも、今まで通りは里の人達にも、自分にも無理なのだと理解している。
思考は始めに戻る。
これからどうしていくべきなのか、答えは出ない。
否、シオナはその答えを持ち合わせていない。
家の外に佇んでいたシオナは、そこから見る景色の中に、祠の影が映り込んで、ふらりとそちらに足を向けた。
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