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大木の影にひっそりと建つ祠は、行われる予定だった雨乞いの為に、周囲の木々を利用して周りからの目隠しに幕が張られていた。
スセンは早朝からカラトを伴って、その祠を見に来ていた。
「他神の祠なんか見に来て良かったんですか? また里の人達に詰め寄られたりとかしませんか?」
カラトは昨日、殺気立った里人に詰め寄られた事が余程応えたようだ。
「祠に神が常駐してる訳じゃなし。それに、ここは元々セネルト神本体を祀る祠じゃない。」
「は?」
カラトの惚けた声ににやりと笑みを浮かべる。
「ここは、セネルト神の眷属が立ち寄ることのある祠だったようだな。」
カラトが眉を潜めたのを見て、今度はちょっと真面目な顔になって、続ける。
「そういう場所は各地にあるが、祀る神に関する言い伝えが廃れていったり、始めに交わされた神との取り決めが受け継がれなくなったりで、神が祠から去ってしまったり、祠自体の存在が忘れ去られてしまったりで、各地で祠の機能が失われていっている。」
カラトも何か考え込むような顔になった。
「そういう祠を蘇らせて、神殿の威信を回復しようっていう動きが一部の神殿にあるそうだ。シオナの母親もその一環でルトの里に派遣されたんだろうな。」
痛ましげな顔で祠を見詰めるカラトにスセンの表情も柔らかくなる。
「あの娘は、どうなるんですか?」
カラトが祠の方を向いたまま問い掛けてくる。
「あの娘次第だな。でも、本音を言うとセネルトにくれてやるのは惜しいかもしれないな。」
「くれてやるって神様相手に何て事言うんですか!」
カラトの速攻の突っ込みに、スセンは苦笑する。
「神様じゃない、神殿にだ。あの娘は、もしかしたら並な巫女体質じゃないかもしれない。派遣されてくる司祭に任せていたら、母親のする筈だった役目を引き継ぐ話しになり兼ねない。そうなれば、十中八九この祠の守人として里に縛られることになる。」
「それは!・・・」
複雑な顔で黙り込んだカラトにスセンは頷いてみせる。
と、祠の周りを覆っている幕がひらりと持ち上がった。
「それは、本当ですか?」
顔色を無くしたシオナが幕の内側に入ってきて、スセンの顔を真っ直ぐに見上げた。
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