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スセンの表情は、滅多な事では変わらない。
シオナは見上げた先で臆することなくこちらを見つめ返すスセンに、僅かに苛立ちを感じるような気がした。
「多分だが、君のお母さんは何らかの方法で、神を祠へ呼び戻す術を持っていた。それは君にも受け継がれている可能性が高い。」
淡々と話すスセンにシオナは唇を噛んだ。
「私は、もうこれ以上この里に縛られたくない。」
目をぎゅっと瞑って、これまで決して口にしてこなかった我儘を言う。
「なら、里を出るか? 外の世界を、見てみたいか?」
目を開けると驚く程優しい顔をしたスセンに出会って、目を瞬かせる。
「今なら、俺が連れ出してやれる。まあ、ちょっと無いくらいの巫女体質は気になるから、神殿巡りは必須だな。折り合いのつく神殿があったら所属しといた方が良いだろう。落ち着く先を見付けられたら、俺達とは別れればいい。どうだ?」
シオナは驚きに声も出ない。
スセンはシオナ次第だと言ったが、そんな提案も用意してくれていたのだ。
泣きたいような気持ちになった。
「付いて行っても、いいんですか?」
半分涙声になっている自覚がある震える声で訊くと、スセンは不敵に笑った。
「まあ、余り安全な旅ではないし、野宿や汚いところでの寝泊りも我慢してもらうことになるかもしれないが?」
野宿の経験などないが、スセンやカラトとなら、新しいことを始めてもいいと思った。
「お願いします。スセン司祭様、私をお供に加えて下さい。」
改まってお願いをすると、何故かスセンの表情が不機嫌になった。
首を傾げるシオナにスセンは苦い顔のまま、溜息を吐いた。
「様付けとか、特に司祭様は止めろ、俺が公に仕事中以外は禁止な。」
シオナはそれにおずおずと頷く。
妙な事に拘る。
「後は、この祠と雨だな。」
スセンがポツリと呟いた一言で、シオナは現実に戻ったような気がした。
「最後に私の髪を、捧げた方がいいでしょうか?」
スセンはそれには答えず、祠と周囲を眺め回す。
「他所のは気が進まないが、手っ取り早く、呼んで話しを聞いてみるか。」
「は? そもそも他所の神様って呼んで大丈夫なんですか?」
沈黙していたカラトが口を挟む。
「大丈夫だろ?」
軽い口調のスセンに、カラトが頭を抱えている。
シオナはそんな二人に思わず笑みを浮かべてしまった。
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