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祠には、神を降ろす為の人の頭部大くらいの石が祀られ、その前にはクラムかシオナが定期的に供えているのだろう、水と穀物と干した果実が皿に盛って置かれていた。
その台座の下には細々とした道具類が収納された扉があり、その中から粗悪な鋏を一つ見つけて、スセンはぴくりと眉を上げた。
「まさか、これで髪を切って雨乞いに使っていたのか?」
我慢出来ずにスセンが問うと、シオナが漆黒のさらりと流れる髪を揺らしながら頷いた。
スセンは声にならない呻きを漏らして、肩から下げた荷物から砥石を取り出した。
「え? まさか研ぐんですか?」
呆れたような声を上げたカラトをひと睨みして、スセンは側にあった手桶の水を器に掬って砥石を浸した。
「こんな鋏で切ってたら、髪はガタガタになっただろうに。」
スセンが目を向けると、シオナが顔を赤くして俯いていた。
長く伸びる内にガタガタの毛先も落ち着いてきたのだろうが、折角神でさえ愛でる美しい髪の毛先が傷んでいたらと思うと、どうも許せないような気になった。
「ついでだ、研ぎ終わったら毛先を少し整えてやろう。髪を結ったこともないんだろ? 勿体ない。」
そう親切心で申し出たのだが、シオナは更に顔を赤くして遂には手で顔を覆ってしまった。
「悪い。もう髪には触られたくないか?」
シオナは顔を覆ったまま首を激しく振る。
「違います。私、もう髪を結ってみたりしても良いんですよね?」
「ああ。」
スセンはふっと笑みを浮かべて肯定する。
些細なことに涙ながらに喜ぶ彼女が不憫であると共に、可愛らしいと思った。
今年15歳になるというシオナ、小さな子供でも人生の大半を過ごした後でもなく、漸く独り立ちの出来るこの歳で救い出せたことに大きな意義があると思いたかった。
スセンは鋏の留め具を外すと、目の荒い沙汰布を水に浸けてからそれで錆びを擦り落とし始めた。
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