第4章 風の眷属神の祠

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雨乞いの儀式の時、クラムはシオナの髪を祠の幕の内側の更に囲いを作ったその中で切っていた。 今にして思えば、雨乞いの正しい作法も知らず、色々と人に見られたく無かったのだろう。 たまたま行った方法で雨が降ったからそれを続けていたに過ぎない。 祠の幕の中に設えた椅子に座り、櫛と鋏を手にしたスセンが丁寧に髪を梳いてくれる。 スセンが毛先を少し持ち上げて、躊躇いなく鋏を入れると、シャクッと小気味の良い音をさせて、髪の毛が足元に散っていく。 幾度かそれを繰り返した時、突然旋風のような激しい風が吹いてきて、シオナの髪を舞い上げた。 『(ようよ)う、髪の主が見つかった。』 シオナの前に、周囲のものを巻き上げながら(うね)るように漂う龍が現れた。 頭部だけで、シオナの身長の半分はありそうな龍の身体は当然祠の周りに張った幕の中には入り切らず、幕は裂けたり、引っ掛けていた木自体が薙ぎ倒されてしまったものもある。 少し離れた場所にいたカラトは、龍の姿が見えないのか、突然起こった怪異に慌てたように周りを見回しているが、シオナの後ろに立つスセンにはこの龍が見えているに違いない。 「セネルト神の眷属神よ、祠への御渡り歓迎申し上げる。私はヴァラトヴァ神にお仕えするスセンと申す者にございます。御神の祠への御渡りに僭越ながらお立会い申し上げます。」 途端に龍の方から突風が吹き付けてくる。 シオナは慌てて横を向くと椅子にしがみ付く。 薄っすらと開いた視線の先で、スセンが背負い鋏を抜いて地面に突き立て、それに体重を乗せて風に耐えているのが見えた。 そうしながら、彼は大声を張り上げる。 「鼻息が荒いんだ、いい加減にしろ! この娘が怪我でもしたらどうするんだ! 過去に何があったのかは知らない、だが何が理由があって飛んできたんだろ? ここからのことはきっちり俺が立会ってやる!」 シオナは吹き付ける風に目が乾くのも忘れて、スセンをまじまじと見詰めてしまった。 『ふん、噂の“蒼黒銀の双翼”の担い手か。本当に噂通りよな。』 やや弱くなった風の中で瞬きをすると、スセンの服の合わせ目が風ではだけて、胸元で何かが淡い光を放っているのが見えた。 目を懲らそうとしたシオナの視線に気付いたのか、スセンは直ぐにはだけた服を直してしまった。 「我はセネルト様が眷属ルトヴィラ。」
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