第4章 風の眷属神の祠

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『我はセネルト様が眷属ルトヴィラ。』 何となく、シオナの髪で釣ればセネルト神の眷属が現れるのではないかとは思っていたが、呼びもせずこんなに簡単に釣れるとは、流石に思っていなかった。 スセンはついいつもの癖で、他神の眷属神まで怒鳴り付けてしまったことに、小さく反省しつつ、お仕事脳に切り替える。 「まずは軽くご事情の説明と、要求をお聞かせ頂けますか?」 ルトヴィラは、威嚇のつもりかズラリと鋭い牙の並んだ口を開けてギラリと大きな目をこちらに向けてきた。 『我は時折この祠を訪れては、気に入った人の子が現れればそれに力を貸し、しばしの間その者の側で過ごすこともあった。人の子は我を裏切らず、自然と集うようになった里の者も、我とその子を大事にしたので、里の者の願いも聴いてやることがあった。』 良くある祠崩壊物語の始まりの展開だ。 『その内に、祠で我を迎える者は居らぬようになり、我が気に入った者が皆美しく長い髪の者であったが故か、髪だけ切って寄越すようになった。』 里の者や祠守りが欲しかったのは雨だ。 時が経てば、古い風習や考えは忘れ去られ、廃れていく。 『我はその都度、昔の人の子を懐かしんであの子らが望んだ雨雲を運んでやった。』 ルトヴィラの視線がスセンから外れて、シオナに向けられる。 シオナの髪がルトヴィラの吹かせた風に、綾なす糸のように広がる。 『我はこの子と共に過ごしたい。この子の髪に宿り、清かな風をこの子に与え、この子の命果てるまで見守る。』 スセンは僅かに眉を潜める。 「しかしながら彼女は、この祠を、里を去ろうとしております。それでも彼女に付いて来られるおつもりですか? それに、彼女はセネルト様にお仕えする者ではありません。これから先、他のどなた様かにお仕えする者となるかもしれません。」 牽制しておくと、ルトヴィラは再びこちらを向いた。 『ならば、二年の猶予をやろう。我がこの子の髪に宿り、二年が経てば、我の気配はその髪から消えることはなくなる、セネルト様以外の神は我の気配を残した髪を持つこの子を受け入れるまい。』 逆を言えば、二年経つ前ならばルトヴィラと別れてもその気配が残ることはない、ということだろう。 悪くない取引きであるように思える、が決めるのは勿論シオナだ。
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