第1章 雨乞いの里

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ルトの里は、主要な街道から外れた場所にあることから、外から人が訪れることが少ない里だ。 それでも、数ヶ月に一度近場の里や村をまわる行商が訪れたり、数年に一度遠方から来る商隊が訪れることもある。 その他、道に迷った旅人が里に辿り着くこともあり、そういった外からの者は、警戒されると共に歓迎もされた。 彼等は里長の家に滞在し、外の情報や珍しい品をもたらした。 里長に許可を得た商人は、里人とも商売を許され、主に里の特産品との物々交換が行われた。 数日前から数ヶ月に一度里を訪れる二人連れの商人が滞在していて、里の広場に敷いた茣蓙(ござ)には、里では手に入らない物が所狭しと並んでいる。 穀物や日持ちのする野菜や果物、干物等の食べ物類から、織の美しい衣類や装飾品、道具類等、様々なものがある。 シオナは茣蓙の周りを取り巻く里人達から少し離れて、人の切れ目から覗く品々を眺める。 シオナは孤児で、里に住む風の神セネルトの司祭クラムの養女として育てられてきた。 シオナは風の神セネルトの好む美しい髪をしているそうで、雨乞い娘として常に髪を人目から隠し、儀式の時にセネルトにのみ捧げてきた。 里のシオナと同じ年頃の娘達は、長く伸ばした髪を思い思いに結い上げて、花を刺したり、飾り紐を編み込んだり、行商が来た時には髪飾りを試してみたりしているのを目にする。 そんな時、シオナは胸の内が苦しくなるような気になる。 時折、里の娘達や子供達を見ていると沸き起こることのあるその胸苦しさの理由が分からず、シオナは人の居ない場所を探すのだった。
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