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神の眷属というのは皆、龍の姿をしているものなのだろうか。
スセンと話し合いを始めた様子のルトヴィラを眺めて、シオナは呑気にそんなことを考えていた。
そもそも龍は伝説上の生き物で、司祭の蔵書にあった絵姿を見ていなければ、シオナもそれとは気付かなかっただろう。
不意にその龍の目がシオナの方を向いたのに驚いて、会話が漸く耳に入ってきた。
『この子の髪に宿り・・・』
シオナは驚いてスセンを振り返る。
スセンがシオナの意を汲んだように言い返してくれたが、ルトヴィラも諦めない。
結局条件を切ってきたルトヴィラに、断る術はないのではないかと危機感が募る。
「どうする? シオナ。悪い話ではないと思うが、神を宿すっていうのは、色々と面倒だ。」
スセンのやや苦味の強い口調で、益々気乗りがしなくなった。
「この髪は、やっと私のものになったばかりです。例え神様にでも、あげたくありません。」
我儘と思われるのを承知できっぱり断ると、スセンが思わずというように笑った。
だが、ルトヴィラの方からは、ふんという声と共に、強い風が吹いてくる。
『相分かった。我は自主的にこの子に付いて行くことに決めた。契約はいらぬ、ヴァラトヴァの。特別な儀式を経ずともこの子は我が見える。我を選び取るよう説得を続けるとしよう。』
「ならば、少しお姿を小さくして頂けますでしょうか? そうですね、小さめの蛇程の大きさに。」
口元を分からない程僅かに笑みの形に歪めたスセンの要求に、ルトヴィラはまた鼻を鳴らして、それでもそれに従った。
祠に清かな風が流れる。
遠くの空から黒い雲が流れてきて、雷の音が聞こえ始めた。
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