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こわれて
『ねえ…』
『お願いだから私を食べて…』
『髪の毛一本残さずに…』
『理由は…』
『ただ最後まであなたをみていたいから…』
『だから上手に食べてね…』
一の章酒場にて
木目調の全体的にヤニで煤けた店内。
でも嫌な感じはしない。こういうレトロな雰囲気を好む人もいるのだろう。
見る人が見れば、意外と当時としては凝った良い造りと感心するかもしれない。
カウンターに座り、といってもカウンター8席のこじんまりした店だが、まだ時間が早いのか他に客もなく、音もない、止まったような空間で酒を飲む。
タバコの煙だけが、換気扇に向けて流れていく。
「すみません、お客様。私も一本よろしいでしょうか?」
唐突なバーテンダーからの言葉に、男はグラスから顔を上げる。
「あ、どうぞ吸ってください。それとマスターも一杯どうですか?」
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えてラムをいただきます」
バーテンダーは小さなロックグラスに茶色の酒を注ぎ、男に向かいグラスを掲げる。
男もそれに答える。
「すいません、あまりお酒に詳しくないのですが、それは何ですか?」
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