三の章 友人

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『あなたは拒めないし、拒まないわ…』 『だって、あなたも求めてるもの…』 『眼を見れば分かるわ…』 『あなたは私を美味しそうに食べるわ…』 三の章友人 随分昔に駅前が開発され、当時は洒落た街としてメディアや雑誌にも取り上げられた。 今でもその名残があるし、他の開発が次々と行われるせいで、メインとして扱われることは少なくなったが、逆に落ち着き、大人の街になった感がある。 そんな街の駅前の大通りをはさんだ、大手銀行の裏に、男の行きつけの店がある。 昔は下町だった名残を今でも残す店構え。 ビールケースを積んでテーブル代わりにしたものが6つと、コの字のカウンターに、まだ早いにも関わらず今日も立ち飲み客がひしめいていた。 カウンターの炭場の方を見ながら友人は言う。 「しかし、こんな時間からよく人が入ってるよね。まあ、うちらも他人のことは言えないけど。あ、すみません!皮二本タレでください!お前も食べるだろ?」 ウーロンハイを飲みながら男は頷く。 お互いの職場も近いこともあり、友人とは良くこの店で飲んで、とりとめのない話をダラダラする。 注文はいつも友人任せ。別に好き嫌いはないし、食べるペースや量もお互い合う。 楽なのである。 男と友人は大学の同期だった。 そんなに友達のいない男にとって、この友人は一番の親友になるだろう。 友人はタバコに火をつけ、一口吸うと上に向けて煙を吐き出す。 「どう?少しは落ち着いた?」 友人はここ最近会うたびに、挨拶代わりにそう聞く。 「まあ、何とか。相変わらず部屋にはなにもないけどね。でも、それが落ち着くんだよね」 「お前さあ、テレビくらい買ったら?ていうか冷蔵庫すらないんだろ?それぐらい貸そうか?」 「いや、いいよ。確かに部屋借りるのに使ったけど、手持ちがないわけじゃないから。それに本当に落ち着くんだよ。暫くはこのままでいいよ」 友人はちょっと渋い顔で返す。 「それにしたってお前、何かただでさえ覇気がないのに、余計薄くなってない?遠慮すんなよ。俺は大学の時、散々お前に世話になったんだから。ちょっとは返させろよ」 「そんなのいつまでも恩にきなくていいよ」 「じゃあ、ここは俺の奢りだ!好きなだけ飲んで食いなよ!」 男は軽く笑って言う。 「じゃあゴチになるよ。悪いね」
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