こわれて

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バーテンダーがラムと言ってるのになんて間抜けな質問だと、言ってから後悔したが、男は誤魔化すように自分のグラスに口をつけ、バーテンダーの言葉を待つ。別段バーテンダーの飲む酒に興味が有った訳でもないが、このまま会話が途切れて、またグラスに目を落として緩慢に思考することを嫌ったようにもみえる。 「これはハイチのラムです。私の一番好きな酒です」 「ラムがお好きなんですか?さっきおすすめを聞いたら、うちはシェリーの店だとおっしゃったので、シェリーが一番好きかと思いました」 ちょっと釈然としない感じで男は返す。 「もちろんシェリーは好きですよ。とても」 バーテンダーは笑いながら話を続ける。 「でも一番好きなのはこれなんです。これに出会ってこの世界に入りましたから。もちろんこれより美味しい酒はあるでしょうし、うちはシェリーの店ですからシェリーと答えるのが本当なんでしょうが。何て言うか落ち着くし、最後には帰る酒というか。まあ、上手く言えませんが」 そう言ってバーテンダーは思い出したように、そして上手く伝えられないのを流すように自分もグラスに口をつける。 氷もない常温の液体を少し流し込み、男にとってはあまり馴染みのない手巻きタバコを作り始めた。 器用に手で巻いていく。男が見慣れているものよりは細身だが、フィルターもある外見は普通のタバコが出来上がった。 「もしよろしければ、お客様も一本いかがですか?」 「いいんですか?」 「はい。まあ、一杯のお返しには足りないかと思いますが」     
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