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バーテンダーは二本目をまた器用に巻き始める。
男がどうぞと差し出されたタバコを繁々と見てからくわえると、バーテンダーが良いタイミングでマッチをすり、火をつけてくれる。その残火で自分にも火をつける。
軽く吸い込むと、柔らかく、ほんのり甘い煙が口を通して鼻孔に抜ける。
「不思議です。今まで吸ったことがない味わいです。これは特別なものですか?」
まさか怪しいものでもないだろうが、そして仮にそうだとしても、今の自分にはその類いのものが必要なのかもしれないと感じながら尋ねた。
「まあ、特別というか。市販のタバコ葉にシェリーの一番甘いタイプをちょっと垂らして馴染ませました」
「なるほど。じゃあ、この甘い香りはそのシェリーのせいなんですね」
残念ながらその類いのものではなかったが、妙に気持ちがゆったりする。
「よろしければ、どうぞ。試飲程度ですが」
バーテンダーは小さなグラスに濃い、何と言うかプルーンのような酒を注ぎ、男の手元におく。
「シェリーのタイプ、ペドロヒメネスといいます」
男はその黒に近い茶褐色の酒を口に含む。
「甘い!干し葡萄のようです。飲み口も滑らかで、ベタですが、ビロードのような」
「タバコと合わせてみてください。煙が最高のツマミになりますから」
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