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1、開講
なんでこんなに、俺には時間があるんだろうか。
時間があるから何かしなくちゃとか、時間があるなら無駄にしないように動かなくちゃとか、そんなことを考えるのが無性にだるい。
けれども無為に過ごしている自覚はあって、そこにそこはかとない罪悪感を抱いているのも本当で。
「暇だ。暇でしかたがない」
誰に言うでもなく俺はつぶやいた。
目に映るのは家の天井。代わり映えのない朝に、俺はただただ気分が萎えるのを感じた。
いつもいつも、決まった時間に出かけ、決まったことを熟し、決まった時間に帰宅する。
俺は学生。
特に有名でもなく、けれどそれなりに知名度のある、そんな大学で学んでいる。目的はない、ただただ、親が行けというから入試をし、自分のレベルで入れたのがそこなだけで、夢のため、将来のためなど、何一つ考えてはいない。
とはいえ、初めての大学生活だ。楽しまなかったわけではない。しかし通い始めて一年経った今、新入生独特のせわしなさを乗り越えた俺に訪れていたのは、どうしようもない空虚感だった。
一通りサークルも部活もバイトもやった。
元来チャレンジ精神は旺盛な方である。手近なものへの挑戦は早かった。けれども一方で、飽き性でもある俺は、どれも馴染まなくてすぐにやめた。
きっと集団というもの自体が俺にはあわないのだろう。そう思った。言い訳だということも知っている。だからこんなに気が重い。
「 」
伏せる俺の耳に、嫌な声が聞こえた。
階下から聞こえる声。
いつまでも布団に包まる俺を、母が呼ぶ。
起床をせっつく母に生返事をし、俺はもう一度つぶやいた。
「ああ、暇だな」
今日もいつもの一日が始まる。
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