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「暇ならバイトでもすれば?」
人の溢れる食堂。この騒々しい空間の中、一際通る声がそう言った。
「嫌だよ、めんどくさい」
大盛りのカレーにスプーンを滑らせ口に運ぶ途中、俺は決まった文句で彼女に返す。
百合子はその馴染み深い返答に呆れたように溜息を吐いた。
「あのねえ、暇だ暇だって言うなら、その時間を有効に使おうって考えなさいよ」
「だからあ…」
おまけの悪態もお馴染みのものである。何度言われてもいい気分はしない。俺は空いた左手で片耳を塞ぎながら、仏頂面を作った。いつもの論議に入るのも面倒だ。俺は自身の中でもまだ固まらない考えをこの口うるさく友達思いの友人に伝えてみることにした。
「いや、そういうことじゃないんだよ」
「ならどういうこと?」
「なんってかさ、こう…もう良いかなって感じ」
「はあ?」
意味わからない!と、いっそうに呆れ顔を作る百合子。それは俺も同感なのでなんとも返し難いのだが、やはりまとまらない言葉は音にならなかった。
ただただ文句を紡ぐ百合子の口元を見つつ、もうこの話を終わりにしたいなと、それはそれは自分勝手なことを考える。
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