死にたがりの風景画

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 桃花の祖父の家は山の麓にある。見る人によっては丘にも見えるような小さな山だ。  岩山に近く、まばらに木が生えていて、それ以外は岩肌が露出して崖が多い。  崖の上は景色が良く、昔は登山の休憩場所になっていた。しかし、滑落事故を起こったことがきっかけで、立入禁止のテープが両脇の木に結ばれて、休憩場所の道を阻んでいた。  その事件も立入禁止の文字のように色褪せ、何にでも反抗したくなる年頃だった桃花は、崖の上を自分だけの場所にしてしまった。 崖の上に桃香が来た最初の理由は、セミの声から逃れるためだった。あれだけうるさいセミの声も、崖の上まで来れば遠くに聞こえて心地よくなる。  次の年は濃い緑の山を見るためだった。さらに次の年は大きな入道雲を見るため。その次の年は祖父の家の小ささを確認するため。  崖の上に来ることが、夏休みのお盆という非日常な数日の中で唯一の決まり事になっていて、いつの間にか理由もなく、ここに来るようになっていた。  また理由ができたのは大学出て就職をして、しばらく経った時だった。……いや、祖父が亡くなった時でもあった。ちょうどその二つが重なった。  一番好きなこの場所から、飛び降りて死んでやる。桃香はサンダルを脱いで両手を広げた。  強い風を背中に受け、突き飛ばされるように、桃香は飛び降りた。
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