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職場と祖父のことで悩んだ桃香は、あの日に間違いなく飛び降り自殺をした。
目を覚ました場所は崖の下ではなく、崖の上だった。
飛び降りた記憶ははっきりと残っているのに、崖の上にいるしケガもしていなかった。
どういうことだろう。さっき飛び降りた記憶が夢なのか。それとも今まさに夢の中なのか。
混乱している時に、横から声がしたのだ。
「お姉ちゃんはどうして死んじゃったの?」
知らない男の子だった。なぜかは分からないが、この子は私が死んだことを知っている。
そうか。自分はすでに死んだのだ。あの飛び降り自殺は成功したのだ。中途半端に自殺して、ケガをすることが怖かったので安心した。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん。どうして死んじゃったの?」
「あ、ああ。ごめん。私の死んだ理由はね……」
それから私は会社のグチを言いまくった。子供には分からないだろうと思ったが、むしろ好都合だった。理解のある大人に月並みのアドバイスをされるのが大嫌いだ。
「そうなんだ。それでお姉ちゃんは死んじゃったんだ」
「そう。もう死んじゃったからスッキリした。聞いてくれてありがとね」
「うん。じゃあ僕はもう行くね」
男の子は立ち上がって、崖から飛び降りた。
「えっ! ちょっと!」
あわてて崖の下を見たけれど、そこに男の子の姿はなかった。
…………消えた?
そんなはずはない。人間が消えるはずがない。
もしかして、人間じゃなかった…………とか?
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