新世界物語

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新世界物語

 これは、地球とよく似た惑星で生きる、とある女戦士の物語である。 「よし、今から支度をするよ」  レンガ造りの小屋の中で、その女戦士が鉄板に敷かれた薪に手をかざすと、薪はどういうわけか燃え盛った。傍らには、羽毛布団が敷かれたベッドで横たわっている少年の姿がある。  その惑星では所々に青く輝く粒子が漂っていて、人々はそれをライトニングと呼んでいた。科学が衰退したその惑星で、人々は粒子を時には火を起こすために用いたり、また時には水を発生させるために用いたり、さらに時には物を動かすのに用いたりしていた。それらの技術を人々は魔法と呼び、その惑星で広く親しまれていた。 「姉ちゃん、今日もドラゴン狩りの帰りなの?」  ベッドで横たわる少年の声が聞こえると、女戦士は振り向いた。彼女の弟だ。 「あぁ、そうだよ、パンク。今日も一匹退治したから、ドラゴンのステーキ楽しみにしてな」 「わぁい!」  いつもは病気で伏せがちな弟、パンクもご馳走の話になると生き生きと喜びだす。それが毎日の出来事だった。女戦士が熱された鉄板に油を注ぐと油は湧き出し、魔導冷蔵庫に閉まってあった、分厚く切り出したドラゴンの胸肉を鉄板の上に置くと、肉の焼ける音が大きく鳴り響き、においも充満した。パンクはその様を見て目を輝かせている。 「どうだ、うまそうだろ?」  姉が自慢げに語ると、パンクは「うん!」と興奮を抑えられないまま、答えるのであった。肉が焼きあがると、女戦士はそれを皿により分け、テーブルの上にナイフ、フォークとともに並べるのであった。いつもは病弱なパンクもこの時は慌てる様に座りだす。 「いつ見てもおいしそうだね!このステーキ」 「あぁ、我ながら自慢の一品だよ」 姉弟がそろってイスに座りテーブル越しに対面すると、「いただきます!」の掛け声で食事を始めた。 「うん、やっぱりおいしいや!」  パンクが切り出した肉をほおばりながら笑顔を見せる。 「パンク、口に物を入れてしゃべるんじゃぁないよ」  世話焼きな姉の注意を聞いて、パンクは肉を飲み込み「分かっているって」と答えた。肉を次々ほおばっていく弟を目にして、女戦士はあることを思い浮かべていた。 ―この子、気丈に振舞っているんだけど、本当はもう長くないことを知っているんじゃないかな……万病に効くドラゴンの肉を3年も食べさせているのに、病状は悪くなるばかりだし……―
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