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さらに直進すると魔法を研究していると言う民家がいくつもあった。あの老人に目的地を聞いてなかったらあたり中を聞きまわり、それこそ日が暮れるようなことになる。
突き当たりにたどり着くと今度は西に曲がり、酒場の隣に古びてコケの生えた石造りのこじんまりとした民家が見えた。
「あそこだな」
湿った木の扉の前に立つと、レイラはマリーに尋ねてみた。
「なぁ、マリー。こういう時ってどう言うんだ?」
「すみません、旅の者ですって言うんですよ。失礼ですけどレイラさんって、世渡り下手なんですか?」
マリーの一言に、レイラは口をへの字に曲げた。
「悪かったな! 礼儀知らずで」
気を取り直し、レイラは扉にノックして挨拶を試みた。
「すみませーん、旅の者なんですが!」
レイラの大声に気付いたのか。ドアが恐る恐る開かれた。中から現れたのは、またしても老人だった。口元に長く白いひげを蓄え、背丈はレイラたちよりも小柄である。
「何じゃ、騒々しい……」
老人は目を細めてドアの外を覗き込んだ。
「おぉ、なんと強い魔力を感じさせる旅人達じゃ! とにかく中に入りなさい」
老人の言葉に二人は顔を互いに合わせた後首をかしげ、わけも分からぬまま「おじゃまします」と挨拶をして家の中に入っていくのだった。
家の中には暖炉があったが、薪が湿っていて火は消えていた。壁の棚にはほこりをかぶった古い本が何列にも並んでおり、レイラは自身の勉強量を遥かに上回る知識量を老人から感じ取った。
「しっかし、随分と手入れがされていない家だねぇ」
レイラは棚の上を右人差し指でなぞると、指についたほこりを息で吹き飛ばした。
「していないんじゃなくて、もうできないんじゃ。この年になるととてもな……魔力もすっかり衰えちまったわい。あそこの暖炉に火つけてくれんか? ただし、魔法でな」
レイラは何かを試されているように思いながら左手をかざし、暖炉の薪を燃やした。
「ほう。薪が湿っているにもかかわらずあれほどの炎をつけるとは……」
一方、魔力という単語を再び聞いたマリーは疑問に思った。
「あの、さっきもおっしゃっていたんですけど、魔力って何のことですか? 魔法の力かなんかですか?」
「正確には魔法にどれだけその者が適しているかのことじゃが、まぁそういう風に理解してもいいじゃろう」
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