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第1話 ある日突然、桃太が消えた
高校生が二人、火花散る緊迫感をはさんで、相対していた。
時は昼休み。場所は秀英高校の渡り廊下。
「そこから手刀で打ちかかってこい」
鼻息が荒いのは百川桃太。火花はもっぱらこの男から発している。
対する滝田はやる気ゼロ。
「今日もかよ。もうウンザリなんだけど」
「いいじゃん。付き合ってくれても。さ、かかってきな」
「だから、時代劇じゃあるまいし、なんでこんな不自然な攻撃をするんだよ? 普通、喧嘩になると、グーパンチで殴りかかるだろうが」
「それは話せば長くなる理由があるんだよ。ホラ、早く、早く」
「ハイハイ。分かりました。じゃあ、いくぞ。いくからな!」
「よし。ここで手首をつかまえて、体の転換をして……。アレッ?」
桃太の額に脂汗が浮かぶ。
滝田は、頭ひとつ小さい桃太を無表情に見下ろす。
「どうした、合気道の達人?」
「おかしいな。オマエ、力いれすぎだ。そんなにガチガチに頑張られると、小手返しがかからん」
「普通は、力を入れてこらえるだろうが。っていうか、もういいだろ。離せよ」
「アッ!」
尻もちをつく桃太。
離れた所で雑談していた女子生徒たちの視線が一瞬、彼に集まる。
小首を傾げて立ち上がる桃太。
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