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「おかしいなぁ。技がかからない。なぜ?」
二人の様子を眺めていた梶谷が、頭を振り振り歩み寄る。
「『なぜ』もなにも、明白かつ単純にオマエが下手だからだ。これまで何十回もやったけど、成功したことないだろ。いい加減、真実に気づけ」
滝田も容赦せずに追い打ちをかける。
「現実を見ろ、百川桃太。キサマに合気道は向いていない。だいたい、合気道やってるヤツってオタクっぽいよな。ウンチクばかり多くてさ。桃っちも合気道に凝りだしてから、やたらと理屈を言うようになったし。正中線がどうのこうのとか、剣の理合がどうのこうのとか。なんじゃそれは?」
「ずっと、少林寺拳法やってたんだろ。そっちに戻ったら」
「そうだ。桃っちには、ああいう殴る蹴るが向いてる。ほら、もう一回あの足刀蹴りを見せてくれ」
二人こもごも、桃太に言いたいことを言う。
「足刀蹴り」という言葉に反応した桃太。ほとんど一動作で右足を蹴り上げ、滝田の鼻先ギリギリで足刀を止めた。
滝田は3歩うしろによろめいた。
「オオッ! 美しい」
梶谷の称賛の声を背中で受け流す桃太。
「フンッ。蹴り技は今日限りで封印する。オレは合気に生きるんだ。……ん!」
この時……。
突然、桃太はあらぬ方角を振り返った。
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