第1話 ある日突然、桃太が消えた

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「二組の北川さんみたいなタイプだったらいいなぁ。清楚で髪が長くて、色白で、いつも伏目がちで、笑う時にも指で口元を隠すような。ああいうタイプの子って、もろにど真ん中のストレート。一度でいいから……」  桃太の脳内で、花をいっぱに背負った北川百合子がたおやかに微笑んだ。  それを、けうとい目で眺める滝田。 「また妄想モードに入ったぞ。桃太! 現実に戻れ! ああいうネジが固そうな清楚系美少女は絶対にオマエに合わない。まさに蝶とオケラ。ちなみに、桃っちにピッタリ合うのは、開放的で無駄に明るくて頭のネジが適度にゆるいタイプ……。ソフトボール部の鈴木なんかいいじゃネ? あの真っ黒に日焼けした健康的なところとか。騒々しいところとか。やたらと前向きなところとか」 「ソフトボール部の鈴木? 誰?」 「鈴木だよ、鈴木ィ! オマエの真後ろの席だろ!」 「え! あの鈴木さん? 彼女、ソフトボールやってたの? はじめて知った」    *   *   *  午後の授業前のざわめく二年三組。  桃太を後ろの席からボールペンで突っつく鈴木。 「百川くん。百川くん。いつも昼休みにやってる、アレってなに?」 「あれは、修行なんだよ。合気道マスターへの道を日々、一歩一歩登ってるんだよ」 「合気道? ああ、テレビで見たことある。手首をちょっとひねっただけで技をかけるアレでしょ? でも、アレってホント? なんかイカサマぽいっていうかァ」     
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