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「誰でもそう思うんだよ。『あらかじめ打ち合わせしてあるんだろ』って。でも、違うんだよ。ボクの師匠は本当の達人で、手首のここをちょっと押さえられると、ヘナヘナって感じになって、何もできなくなるんだ。ボクだけじゃなくて、ずっとフルコンタクト空手をやってたような人でも全然師匠には敵わないんだ。身長190センチくらいあるんだよ。プロレスラーみたいに胸板が厚くてさ。それでも、師匠を相手にすると何もさせてもらえないんだよ。力じゃないんだよ。技なんだよ。理合に従って技をかけることによって相手を無力化するんだ」
「リアイ?」
「合気道というのは剣の武術がもとになっていて、その理合を体術に応用した日本古来の武術なんだ。そもそもの始まりは新羅三郎義光が、蜘蛛が自分より大きな獲物をからめとる様を見て編み出したと言われていて、それがやがて会津藩の武田家に大東流として伝わり、不世出の天才・武田惣角がさらに工夫を加えて、それを……」
「……」
二人のやりとりを、梶谷と滝田が離れた席から見ていた。
「何やってんだアイツは。鈴木は別に合気道に興味があるわけじゃないってのが分からんのか」
滝田が同意する。
「合気道の話は桃っちとしゃべるきっかけづくりだろ。それに気づかないのか?」
* * *
夕方。桃太は自宅の庭で素振りをしていた。ちなみに、振っているのは木刀ではなく、ホームセンターで980円で購入した木の棒である。
「九九八、九九九、一〇〇〇! フウッ。素振り千回、できるようになったぞ。今なら、宮本武蔵にだって勝てる気がする」
桃太の頭脳に、この時、合気道の師匠の「日本の武術は剣が基本。剣を自在に操ることが合気上達への道なのだ」という言葉が響いた。
「フッフ。達人へ至る道筋が見えたぞ。……ん!」
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