第1話 ある日突然、桃太が消えた

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「なんか、やたらとボクに説教したがるんだよね。東大に現役で合格したことが完全に人格を歪めたね。『エリートであるオレの意見を聴け。愚民め』みたいな感じで、当然の権利のようにアレコレ言ってくるんだ。遊んでないで勉強しろとか。東大以外は大学じゃないとか」 「そりゃ、あなたが勉強そっちのけで、合気道だったかに入れ込んでいるからでしょ。お母さんも、お兄ちゃんと同じで……」 「じゃ、お願いします」  桃太は最後まで聞かずに出て行った。  姉の市子はキッチンに。  残された母・八重子は不満をあからさまに見せて亭主に向かう。 「おとうさん。桃太のあの変なアレ、止めさせてくれない」 「変なアレ?」 「ホラ、いつも庭先でやってる、棒をブンブン振る、アレ」 「ああ。素振り。別にいいじゃないか」 「でも。一人でブンブンやっているのを見ると、なんか変。気持ち悪い」 「いいじゃないか。男の子なんだから、ああいうのに熱中するんだよ。放っといてやれよ」 「あの変なお爺さんに会ってからだわ。桃太がおかしくなったのは」 「変なお爺さん? ああ、あの合気道の先生ね。確かに変な爺さんではあるな」 「おとうさんが、あの人のセミナーに桃太を連れて行ったから。すっかり感化されちゃって」 「ううむ。あれは意外だったね。波長が合っちゃったんだね。でも、あの人、変な人ではあるけど、結構なインテリだよ。一種の学者だよ。面白い話が聞けると思って桃太も連れて行ったんだが」     
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