4人が本棚に入れています
本棚に追加
0
「らーぶーちゃん!」
そんな声を掛けられると共に、首に重みがかかる。
「神崎さん」
名前を呼ぶと、重みの原因である彼女はニッと笑った。
「これからあたしと遊ばね?」
そんな風に彼女は軽く誘ってきた。
「何言ってるんですか、遊べませんよ」
僕はキッパリと誘いを断った。
何故なら、これから授業があるからだ。
「授業? んなもんサボッちまえよ」
「…………そんなこと出来るわけないでしょう」
ため息と共に僕は答えた。
「昔はよくやったじゃん」
「昔は出来ても今は出来ません」
「頑なだなー。さすがは先生で高校教諭。昔とは違いますなぁ」
茶化すように神崎さんは言う。
「そんな貴女は全く変わりませんね」
──十五年前から。
「おうとも。見ろよこのプロポーション」
「そっちじゃありません」
まぁ、確かにそちらも変わってはいないようだが、それはそれでどうだろう。そっちはもう少し変わっててもいいんじゃないかな、うん。
「おい。いま何考えた?」
「いえ別に」
掛けられた腕で首をぐいっと引き寄せられて睨まれたが、僕はすっとぼけた。
そんなこんなとやりとりしているうちに教室に着いた。
「あ、そだ、遊ばない変わりに授業、見てっていい?」
「邪魔なので拒否します」
「らぶちゃんが冷たい!」
がらぴしゃっ
教室に入って僕は神崎さんを遮るように引戸を閉めた。
神崎さんはそこで諦めたようで、「ちっ」とこちらにも聞こえるように舌打ちをしてから離れていった。
「らぶちゃん先生、いいの? 神崎さん可愛そうだよ」
ドアに一番近い席の生徒が笑いながら言う。
「あの人を教室に入れると君らと遊ぶからダメなんだよ」
「えー? 神崎さん面白いのにー」
「神崎さんと遊びたいなら授業以外の時間を使ってくれ」
教壇に立ちながら僕は生徒に言う。
授業開始のベルが鳴った。
生徒たちが机の上に教科書を出す音を聞きながら、僕もまた、今日の授業の範囲を確認するのだった。
最初のコメントを投稿しよう!