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確かに……気持ちのいい風が吹いている。神崎さんにネックロックされて熱を帯びていた首が、クールダウンしていく。
神崎さんは上げていた腕を頭の後ろで組むと、すたすたと移動し、落下防止のコンクリート塀に背中を預けた。必然と、僕と向き合う形になる。
「……懐かしいですね……」
昔に見慣れた眺めに、思わずそう呟き掛けた。
「だなー。お前が死に場所にしようとしてた場所だもんな」
「……そして貴女に生き場所に変えられた場所でもあります」
僕は神崎さんを見つめた。
神崎さんも僕を見つめた。
「…………」
「…………」
表情の無い神崎さんの顔。けれど、見つめてくる目は真っ直ぐで、僕の鼓動は少し早くなった。今、僕を見つめて彼女は何を思っているのだろう。呆れた……だろうか。それとも。僕の心の中を探っているのだろうか。目は口ほどに物を言うらしいが……どうだろう。もしも伝わってしまうのなら……伝わるのは感謝と敬意だけでいい。僕の中にあるもうひとつの気持ちには気付かないで欲しい。
しばらく見つめ合って──先に沈黙を破ったのは神崎さんだった。
「…………そんな大したことしてねーっつーのよ」
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