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「てかさー、その敬語、直してくんないのー?」
切り株を模したテーブルに座りながら神崎さんが言う。
この『テーブルに座りながら』というのは言い間違いなどではない。
マジでテーブルに尻を置くんだよ、この人は。
「直しません、と十五年前に宣言したはずですが」
「え? あれって継続してんの?」
「こればかりは譲れませんので」
「頑な……っ、強情か!」
「なんとでも」
「………………」
神崎さんが黙ったので、僕はお弁当に箸をつけることにした。まずは卵焼きを箸先で切って半分ほおばる。続けて、ご飯もひとすくい口にいれる。咀嚼しながら神崎さんを見ると、食事をする様子もなく、何故か──僕を見ていた。
「…………食べないんですか?」
口の中のものを飲み落としてから訊く。
「──そんなに大したことしてないんだけどな」
僕の疑問を無視して神崎さんが言う。
「…………」
今度は僕が黙る番だった。
彼女が何を示唆して言っているのか僕には分かるからだ。
「らぶちゃんがアタシに敬語使うようになったのって在校時……三年生の後半からだよな。それまでふつーだったのにさ」
「……………………」
「タイミング的には──《あれ》以降だよな」
「………………………………」
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