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どしゃ降りの蝉時雨、はぐれた靴裏、伝う汗。それから。
あの日、僕らが浮いたのは実のところ一度きりではない。
失敗の挽回のため、夜中まで走り回り、作業を繰り返し、謝罪を重ねて、疲労困憊して誰もいない会社に戻った。そして終電近く、駅に向かうためにいつもの近道を通った。
外灯のためか、気温の高さによるものか、昼夜を勘違いした蝉たちはまだ啼いていた。もちろん、蝉時雨と呼べるほど啼き立ててはいなかったけど。
蝉が啼くのは、オスがメスを呼び寄せるためだと聞くが、夜に啼いたところで意味があるのだろうか。そんな疑問を口にすれば、試せばわかるんじゃない、と暑さと疲れのせいか感情の読めない声音で返された。何を試すのか、八尾さんも特に意味を込めて言ったのではないだろう。あの時点では。ただ口を突いた、浮かんだ言葉を吐き出した、というふうで。
彼女の顔色は平然と青白く、僕はむしろその顔色が変わることがあるのか気になった。試したくなったのば僕だった。
墨を溶き流したような、窒息しそうなほど蒸し暑い夜。蝉時雨が甦った。
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