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夏が来た。4度目の夏。私は欠けたカップをテーブルに置き、立ったまま窓の外を眺めている。
不意に低いエンジン音が遠くからして、黒塗りの高級車が外門に止まった。降りてきたのは一人の少女で、青空の下に真っ白なワンピースが躍っている。
汚れて濁った窓ガラスの向こう側、麦わら帽子を脱いだ少女がこちらをまっすぐに見上げていることには気がついていた。館、ではなく、私を一直線に捉えている。
くるくるの黒髪が風に踊って、ここからでは見えるわけもない青い瞳が、ぼやけた私を映しているのがすぐにわかった。
「……うそつきめ」
少女は両手で私にキスを送ると、車に戻ってその後2度と姿を現すことはなくなった。嘘つき少年はもういない。いや正しくは、元からそんな人間はいなかったのだ。
夏が終わり、私の季節も幕を下ろした。
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