幽霊屋敷と嘘つき少年

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夏が終わると、挨拶もなしに少年は消えた。私は眠ることがなかったが、それでも、どうしてか彼が出ていく背中は捕らえられない。それは翌年も、その翌年も同じだった。 少年が出ていってから、秋と冬を長く感じた。あんなに愛した春風も、どこか淫らで空っぽな気配に感じてしまう。 私は夏に恋をしていた。 少年は名をケイイチと名乗り、翌日にはスミノフになり、その3日後にはミシェルでもあった。くるくるとした短い黒髪を指先でいじりながら、こちらを見上げる両目は青い。 話し言葉はイギリス訛りのように思っていたが、日本語もドイツ語も流暢に話すので、私の推理は思うように進まなかった。 「もしや本物のエルフではあるまいな」 「伯爵のそういうところ、かわいくて好き」 屋敷にいる間、少年はまるで幽霊のように過ごしていた。ほとんど食べず、ほとんど眠らず、外出も最低限にとどめている。 それ以外の生きた時間は、すべて私のそばで過ごした。カビだらけのカーペットに寝転がって、ひどく面白そうにこちらを見上げる。 「ねえ、どうして成仏しないの」 「やり方がわからん」 「じゃあ、わかったら天国に行っちゃうの?」 「どうかな。覚えている限りでは、私はほとんど善人ではない」 「ふふ、それなら、地獄でまた会えるね」 少年は私に触れられたが、私は少年に触れられなかった。また嘘をついたな、と私が言うと、少年はとぼけた顔で口角を上げる。 「私に会いに来ているのではない。お前はただ限りある季節を消化しているにすぎないのだ」 また夏が終わり、少年は消え、長い長い沈黙が続く。 少年は怒ることも、泣くこともなかったが、時折ぐったりとしてベッドから動かなくなることがあった。死んだのか、と私が問うと、それならもっと喜んでると彼は言う。 「死にたいのか」 「そうかも」 「つまらんものだぞ」 「僕は紅茶なんか飲めなくてもいいし、同じところでじっとしているのも平気だもん」 「それはおそらく事実だろうが、それでも死ぬのはやめておけ」 「なんで?」 「引き止めたいときに、腕がないのは困りものだ」 ベッドにうつ伏せになったまま、首だけを回して少年はこちらをじっと見上げる。私はチープなホラー映画のように枕元に突っ立ったまま、黙ってその目を見つめ返した。 ブルーの瞳が大きく揺れて、ぱたりと雫が枕に落ちる。 「いっそさらってほしいのに」
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