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第1話 何となく
俺、佐久良 優斗は何となく、中庭で昼食をとっていた。今日はいつも昼食を共に食べている友人が病欠したため、一人での昼食だったのだが、何となく食堂で食べる気にはならなかったので、何となく中庭で食べることにした。この中庭は誰もいない。通り抜ける人はおろか、この中庭に目を向ける人すらいない。ましては昼食をとるなどもっての外だ。なぜなら、ここで人が死んだからだ。一年前、ここで同級生の篠倉 彩が死んだ。死因は事故死だそうだ。そのせいでこの中庭は、人っ子一人いなく(俺はいるが)、校舎から見たりもしない場所になってしまっていた。俺はその空間で、イヤホンで音楽を聴きながら弁当を食べていると、木が揺れたことに気が付いた。俺は、ちょうど弁当を食べ終わった頃であったので、弁当を片付け、後ろを向くと、幹の真後ろから、長めの髪と、制服、そして泣き声が聞こえてきた。
「っ……っ……」
俺は何となく誰が泣いているのか気になり、幹を回り込もうとしたとき。「ピキッ」っという落ち木の折れる音が、俺の足元からした。その瞬間、泣いていた少女がバッと幹から顔を離し、こちらを向く。その少女は、赤く頬を染め、涙を流した、咲蕾 寧々であった。
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