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第2話 そっけない
俺の顔を見た咲蕾さんは、頬をより一層赤くしながら、一生懸命涙を拭いていた。どうやら恥ずかしいようだ。俺はポケットから綺麗なハンカチを取り出し、差し出す。
「よかったらどうぞ」
俺が、そっけなく言うと、咲蕾さんは驚いた表情をした後、笑顔で受け取った。
「ありがとう」
とお礼を言いながら。
「あなた、佐久良さんですよね?三年二組の」
咲蕾さんは、俺のことを知っていた。一年の頃、同じクラスになった時覚えてくれたのだろう。
「あ、うん」
俺は、母や妹以外であまり女性とは多く会話をしないので、そっけない態度になってしまいながらも返事をした。
「私は咲蕾寧々です。一年生の頃同じクラスだった……覚えていますか?」
「うん、覚えてる……」
咲蕾さんのおっとりとした言葉に、妙な羞恥心を覚えながら返事をする。
「よかった。佐久良さんが覚えていてくれてうれしいです!」
いつの間にか涙が目元から消えた咲蕾さんは、嬉しそうにまた笑った。だがそのセリフのワンワードが嫌で、俺は顔をしかめた。
「?どうしたんですか?」
そのことに咲蕾さんはいち早く気づき、気にかけてきた。
「いや、大したことじゃないんだけど……佐久良って女っぽいから少し気になるんだ。出来れば優斗って呼んでほしい」
俺は昔からその苗字でいじられることがあり、昔から嫌であった。……ほぼ初めて話した相手に突然名前で呼んでほしいと言われた咲蕾さんは、驚いて少し硬直した後、急に謝った。
「ご、ごめんなさい!私、苗字で呼ばれるのが嫌って知らなくて!」
「あ、いや、そこまで重く考えなくていいから」
俺は、また泣き出してしまうような謝り方をしてきた咲蕾さんに、俺は焦りながら落ち着かせる。すると咲蕾さんはばっとこちらを向き
「優斗くん、で、いいですか?」
「あ、あぁ」
「ちょっと恥ずかしいですね」
「あ、あぁ」
「でもおかげで落ち着きました。」
俺はまさか本当に名前で呼んでもらえるとは思わず驚いてしまった。そもそもいつもなら、女っぽい苗字で呼ばないでほしいとは言えもしないし、言えたとしてもほぼ初めて話す人に言ったら、普通引かれてしまうであろう。なのに咲蕾さんは、引くどころか、恥ずかしがりながらも普通に呼んでくれた。その事に少し喜び、返事をした。
「じゃあ私のことも寧々って呼んでください。……呼んでくれないとまた苗字で呼んでしまいますからね!」
咲ら……寧々は、恥ずかしがりながらもそう言って、トテトテと行ってしまった。……さて、どうしたものか。俺は茫然とその場に立ち尽くした。
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