あらすじ

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受験を控えた不登校の中学三年のある少年は10年余りの人生を閉じようとしていた。 疎外感と虚無感そして極度の焦り、それは親親戚友達を含め誰も彼に関心を抱かず来年に受験を控えた身でありながら家から出られない自分の現状・現実に対する感情のうねりだった。昔は仲が良かった姉とも数日前につまらないことで喧嘩をしてそれ以来彼一人を残した彼の家は廊下に響くセールス電話の着信音と彼のパソコンのブルーライトが部屋の壁を照らすのみだった。 彼の両親が離婚したのは彼が小学校に入学した年だった。離婚の原因は母親にあり親権は父親がとった。が、父親はアルコールに依存しておりなにかとストレスが溜まると酒をあおるそんな父だった。父が彼の姉に手を挙げたのは彼が小学校高学年、姉が中学を卒業してすぐの頃。それから姉は男を作ってその男の家から高校に通っていたが、それも長くは続かなかった。姉が高校を卒業するころには彼は中学三年生になっていたが彼はその半年前から学校には通わないようになっていた。そして彼にとって試練の夏がやってくる。 夏日にしては珍しい激しい雨が降った日の夜。彼は朦朧とする意識の中で縋るものをさがした。首に巻いた縄が彼の息を少しずつ奪っていく。もがく中で彼は欲した、あれほど醜く見えた生きているという実感を。願った、もう一度生きる権利を。縋るものがあるのならそれが神仏でも何でも構わないと彼は思った。もがき続ける足が近くに倒れた椅子の背もたれにその爪先を乗せ生の先端を掴んだ。少しずつ気道を確保し彼の自殺は失敗した。 翌日の朝彼は床に寝そべっていて頭上には昨晩使った縄がそのままぶら下がっていた。 彼は何度か咳き込んで、そして落胆した。 彼はその日部屋から出なかった。日が昇り、落ちるまで彼は部屋の片隅で蝉のように時間が経つのをただ待ち続けた。父は仕事で帰ってこない。もしかしたらそうじゃないかもしれないが父は息子にそう説明した。西日が部屋を琥珀色に染めても彼は動かなかった。蜂蜜を満たしたような空間がその陰りを見せ始めても彼の体は動かない。ただ彼の心臓は早鐘を打ち始めた。灯るような、もしくは陰るような淡く、もしくは酷烈な混ざるような想いが胸の内で産声を上げ、彼はただ思った。 ここから逃げ出したいと。
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