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錆びたまま壊れた玩具のようになって動かなくなったあの扉が音もなく閉まった。
少しの間をおいて古く経年変化したその異物は今度は小さな音を立てて読みかけの分厚い本を開くかようにあいた。
中から姿を現したのは民族衣装のような見たこともない恰好をした妙齢の女性だった。
彼女は静かに辺りを見渡した。そして彼を見つけると、眼の奥を遠くしながらこちらに対し文句を言ってきた。
が、不思議なことにその言葉は難解で聞き取りづらく遠慮なしに言うならとても耳障りな音の並びに聞こえた。
彼も彼でなにが起こっているか理解できずこれは夢かなんならあの世なのではないかという疑念を膨らませ、彼女に対し恐怖と驚きで引きつった顔を見せた。
彼が困り果てた様子を見て取ったのか彼女は彼の許に近寄り黙って扉を指さした。
彼は彼女の所作と眼差しから敵ではないことを感じ取ったが久しぶりに他人と対峙したことで手が震えその場を動けなくなっていた。
彼女はあきれた表情で彼の肩を担ぎ錆びてボロボロになった扉の前まで彼を運んだ。
そのあと二言三言なにかを口にして彼を扉の向こうへ渡そうとした。その時、彼の体はバランスを失いふたり倒れるようにして扉の中へと吸い込まれた。そこはよく知る玄関でも廊下でもなく、ただそこにある虚空へとふたりの姿が消えていった。
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