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彼が現実味のないその現実を受け入れるのに案外時間はかからなかった。
柔肌と呼吸の音が聞こえそうな距離感、しかし彼を驚かせたのは何故か彼女の言葉が理解できるということだった。
あれほど耳が拒絶していた言葉の束を今はすんなりと日本語として理解できる。
この不思議を彼は言い表せなかった。
どうやら話を聞くに彼女はあちらの世界の人間でこちらの世界の人間ではないこと、自分と彼女が共にあの扉をくぐるのはまずかったこと。
そのまずいという証がこうやって同じ言語を解している事でふたりであの扉をくぐってから記憶が混濁している事などを話し、彼女は用事を済ませたかのようにその場うずくまって寝息をかきはじめた。
次の日、彼らは方策を立てることにした。
曰く彼女が元いた世界とこちらの世界は別できっかけがなければ開かないし閉じることもしないのだという。
彼女の話によると彼女が彼とあの扉をくぐったあと彼女は彼の自室の扉の前で倒れていて眼の前には眠った少年がいたのだという。
それが昨日の事。
それを聞いて彼は不思議に思った。
確かに自分はあの扉を彼女とともに越えた、しかしそれは昨日の事ではなく一昨日の事。
決して昨日の事ではない。
それに一昨日、彼女は玄関で倒れていた。
それともあれは夢だったのだろうか。
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