思い出

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 闇の中で頼れるものなど何もなかった。思い浮かぶのは母親の顔。  しかし、母親は魔法を使って、この場に来てはくれない。その時の自分でも理解していた。 「どうかお願いします」  雷が落ちてから初めて発した言葉は、自分でも驚くほど震えていた。  さらに、自分がどれだけ怯えているのかを知り、余計に恐怖する。 「神様。どうかお願いします」  特定の何かを願ったわけではないと思う。ただ、その単語が口から勝手にでた。 「それが望みか」 と、聞こえたような気がした。 「--だ、だれ?」  気配はしない。 「本当に望んだことか?」  何かを願ったわけではない。藁にもすがる気持ちで言っただけだった。 「なにも、望んでません」 「そうか--。お前が本当に何かを望んだとき、お前の言葉は現実になる」  それは自分が幸せになる力でも?  それは自分以外を幸せにできる力でも?  あなたは誰?また会える?  声の主が最後に「あぁ、間違いなく幸せになる。そして、会うのは死んだ時ぐらいだろう」と言い残すと、それまで闇に支配されていた空間に、光の線が、流れて消えていった。  光の線は、それから一生現れなかった。
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