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目が覚めて、一番最初に見たのは真っ白な天井。
「マナミ。……目、覚めた?」
丸顔の、40代後半から50代くらいの女性が視界に入ってくる。
見知らぬ女性。
--『私』より少し年上かな。
なんて思っていたら。
「手術、成功したのよ。お母さんもこれでひと安心だわ。具合はどう?」
聞かれて困ってしまう。
イマイチ、自分の状況が把握出来ない。
そして。
『お母さん』。
その言葉に酷く違和感を感じた。
……お母さん!?
あなたが?
『誰』の?
「……ココ、どこ?」
喉が乾いて、上手く喋ることが出来ない。
やっと絞り出したその声は、少なくとも『私』の知っている『私の声』ではなかった。
「病院よ。……覚えてないの?」
微かに漂う消毒液の匂い。
辺りを見回す。
真っ白な天井、真っ白な壁。
ベッドの回りには仕切りのカーテンが、頭の上にはナースコールのブザーが垂れ下がっている。
私は病院のベッドの上に仰向けで横たわっていた。
覚えていない……。
どうやって来たのか。
何故、ここにいるのか。
何一つ覚えていなかった。
「お願いがあるんだけど……鏡のところまで連れて行ってくれる?」
「鏡……? 洗面台ならそこにあるけど……」
差し伸べられた『お母さん』の手を借りて、ベッドを降りる。
麻酔が利いているのだろうか。
頭がまだくらくらする。
上半身を支えてもらいながら、洗面台の鏡の前に立つ。
そこに写っていたのは。
ウェーブのかかった長い黒髪の女性。
年の頃は20代、といったところだろうか。
少しふっくらとしているが、目鼻立ちのはっきりとした、いわゆる美人顔だ。
思わず、顔に手を充てる。
鏡の向こうの女性も同じように、顔に手を充てた。
そこにいたのは。
……おそらく『マナミ』だろう。
少なくとも『私』の知っている私ではなかった。
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