オミトオシ

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 先日突然に倒れた。妻は「最近無表情で、あなた大丈夫かしらと思っていた」と言う。 「少し働きすぎじゃない?」 そう声をかけられたが、僕はぼんやりして何も返事をしなかった。妻は、心配そうに僕を見つめるフリをしていた。分かっているんだぞ。  それから間もなくのある日、僕は寝坊をした。 「一度声をかけたけど、具合が優れないみたいだからそのままにしていたの。あなた無理するから」。 そう言う妻に、 「自転車で駅まで送ってくれ」。 なぜ自動車でなく自転車なのか僕にも良く判らない。妻も 「そんなの変だよ?」 と言うが、 「二人乗りで送ってほしいんだ」。 僕はこだわって、おかしなことを言う。妻は(仕方がないから)彼をママチャリの後ろに乗せて、土手沿いの道をフラフラしながら駅に向かった。最近の彼は様子がおかしいので、あまり否定しないであげようと妻は思った、のだろうと、僕は思った。オミトオシだ。  そのまま小さなハイキングになって会社を休んでしまえば良いと思っているのだろう。そういうことが続いて会社をクビになったって、まだ子供もいない。とりあえず私が今のパートをやめて、もう少し給料の良い派遣社員に戻ればいいと、思っているのだろう。貯金も少しはあるし、しばらく静養してまた元気になったら働けばいい、と思っているのだろう。わかってるんだ!実際そう言われたこともあるから…。しかしそうはいくか。思い通りになると思うなよ。  自転車で土手を走りながら話しかけられ、僕はほんの少し無邪気に楽しかった。あぁ、たのしかった『あの頃』を思い出すような気分です。そうしたら、僕の『顔面』から涙がポトポトポト・・・。  妻は、『少しは気分転換にならないか』と思って話しかけ続けた。そうだろう?なぜかまた憂鬱になった。  しかしそれでも、妻はゆっくり走ってくれてはいたが、僕は『あぁ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ‥‥』。そして無言で自転車から落ちた。そのまま意識を失いQQ車で病院へ運ばれる。しばらく後に意識が戻った僕は、白いベッドの上で大事な話をした。 「よく覚えていないんだけど、すごくいやな夢を見て。何かすごくしんどくて、家族や大切なものに怒鳴りつけてしまうんだ。それで家を飛び出して・・・。でも最後に新柿結比が出てきて、”大丈夫よホラ目を覚まして”って優しく肩を叩かれて、それで目が覚めた」。
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