あの日あの場所にあの子がいて~1~

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だが、そんな努力も虚しく剣道部、男子バレー部、女子バスケ部…と部活荒らしは収まらなかった。次々に出される被害届の数と見つからない犯人に学校もPTAも生徒も躍起になった。それでも犯人は巧妙に姿を隠し続け今に至るーというわけだった。      「早く捕まればいいのに。」      靴箱に靴をしまいながら呟く。きっと俺だけじゃない。犯人以外のみんなが思っていることだろう。俺は別に犯人に興味も怒りも覚えていない。ただみんなが悲しむことはやめてほしい。そう思っている。俺はみんなと笑い合う平穏が、そんな日常を過ごしたいだけなのだから。      「今日、バスケ部だったんでしょー。」  「男バス乙だわー。」    通り過ぎる彼女たちの話は今日の部活荒らしの事だ。俺の学校の男バスはそこそこ強豪だ。バスケもそうだが、秀才、イケメン、今は解散しているが暴力団組織CAINの総締めの息子がいたりと本人たちそのものがまさに強豪だった。ここでは部活における暗黙のルールとして男バスには手を出さないこと、女テニには口出ししないことがある。その一つを破ったに等しいのだ。    「犯人、案外アホなのかな。」    なんとなく、なんとなくそう思った。誰にも聞こえないようにつぶやく。そうこうしているうちに教室はもう目の前で俺が入ると廊下まで聞こえていた喧騒がボリュームを増した。      「あっ、おはよー、白河。」  「お早う。」  「白河ーーっ。」    俺は朝の挨拶に一つずつ返していく。そして自分の席に鞄を置くと友達の方へ向かった。特になんの用もなくチャイムが鳴るまであと5分もないが、今日はそんな気分だったのだ。    「おはよ。」  「おっせーぞ、白河。」  「おはよ。相変わらずのマイペースかよ。」    俺が声をかけるとグループの円に少し隙間を開けながら声をかけてくる。それが俺の日常で、なんの変わりもないことに少しホッとする。俺のいるグループにバスケ部なんてかっこいいやつはいない。俺は平和が好きなんだ。わざわざ、災いになりそうなやつがいるグルーブには入らない。      「そういえばさ。」    誰かが話し始めた話題に誰かが食いついてみんなが同調したり、反発したり、そんな毎日が俺の日常ー白河 奏多の日常だったはずだった。あの瞬間までは。
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