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第3章
暑さは脳を溶かす
「この事、黙っていてくれない?」
あの日。俺が朝霧の行動を不幸なのか幸いなのか見てしまってから彼はそう笑った。
「な、にを…。」
俺はただ戸惑うばかりで言葉すらまともに発することができない。まるで凶悪犯と対面しているかの恐怖が俺の中にあった。しかし、当人はぐちゃぐちゃになった部室で話し続ける。
「僕が部活荒らしの犯人ってことだよ。流石にバレたらやばいし。」
「いや、そういうわけには…。」
いかないだろ。今まで何人が犠牲になったと思っているんだ。今言わなかったらどうせ被害者が増えるだけだ。それを俺の表情から汲み取ったのか朝霧は少し考えたあと俺にある提案をした。
「それじゃあ、君が僕のこと黙っていたらもう部活荒らしも辞めるよ。」
辞めるだと?俺が黙っていればやめるのか朝霧は。なら黙っていたほうがみんなの得になるかもしれない。どうせ過去は取り戻せないし、朝霧のことを教師に言えば俺まで巻き込まれかねない。なら…。
その時、俺の下した決断はおそらくあっていたのだと思う。朝霧はその後部活荒らしをする事も無く、いつもの日常にその噂もかき消されていった。ただ一つ。
「あ、あのっ、白河君。」
朝霧が俺と事実上の友達になった事以外は。
「了解。屋上な、あとで行く。」
「うん、分かった。」
あのとき俺はあの条件を飲むときにもう一つ約束された。つまり、俺と朝霧が友達という関係であること。彼とはもう2週間の付き合いになり、いつまでかの茶番が続くのだろうと思いつつも今の関係に少しながら居心地の良さを感じている部分もあった。暑い暑いとシャツの中に空気を取り取り込みながら誘ってきてくれる友達をやんわり断りを入れ、俺は屋上へ向かう。
「あっち?。」
屋上は校舎の中よりも暑く日が照っている。蝉がうるさい、暑い、太陽が眩しい。教室で食べればよかったと今更ながらに後悔する。
その中でも太陽光パネルの下は涼しい日陰になっている。その下に朝霧はいた。彼はこんなに暑い屋上でいつも飯を食っているくせに部活が体育館系だからか日焼けしていない。俺もおんなじ体育館系なのに、日々の通学でこんがり焼けた腕に多少の差別を感じる。
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