うそつき

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行くけど、どうする?」 「行く行く、行きたい!」 「私も!」 「僕も行きたい!」 対して、ぼくは言う。 「行かない。また、今度にするよ」  山峯君は、そんな言葉も聞こえないかのように。 「じぁあ、行こうか!」  彼は窓の外に駆け出した。足取りは軽く、何より楽しそうだ。 「いいの?行かなくて」  隣の席の百井が聞いてきた。 「いいんだよ」 「でも、君は行くべきだと思うよ」  彼女は自席に置いた花を見ながら言う。 「未だにちゃんと真実っていうものを見ていないからね」  百井は浮いている。文字通りで他意もない。  彼女は幽霊だ。  仕方なく、身を隠しながら、彼を追って空を駆けた。  追った先は学校の小さな畑だった。トマトやキャベツが、少ないながらも美味しそうになっている。  その畑の縁にあるのは、二つの生ごみ処理機。中に生ごみを入れて腐らせて肥料に出来る入物だ。ポリタンクのような素材で出来ていて、色は緑。その蓋をあけて、山峯君とその取り巻きが話している。 「どうなってる?」 「これはすごいなぁ!」 「ミイラみたいになるのかな!?」 「ミケもこうなってたのかな?」 「もっと観察しようよ!!」 「そうだね、ワンちゃんがこうなるなんてびっくりだよ。これからどうなるか楽しみにしよう」  最後にそう呟いた山峯君は嬉しそうに笑っていた。  彼らが帰った後で、ぼくは生ごみ処理機を開けてみた。  そこにあったのは、ぼくだった。  言ってしまえば、『土里はじめ』。  酷く臭うそれを見てぼくは考えを巡らせる。  誰かに話しかけても、全く反応されなかったのはいつだったか。  先生にいるのにいないことにされて、自分が幽霊になったのに気付いたのは、その後すぐだった。  そのうち、死んだはずの百井が見えるようになった。山峯のグループに殺されたはずの。今も彼女は隣の土の中で眠っている。要は死人は死人にしか見えないということだろう。  『はじめ』という名前から『ワンちゃん』と山峯たちに呼ばれていたのも知った。  そして、彼らがぼくの腐る過程を見て楽しんでいるのも知った。  ぼくは、ぼくの屍体を覗き込む。  両手両足を縛られて、口元も粘着テープで覆われている。姿、形は曖昧になり、肉に蛆が蠢いている。  ぼくは、ぼくがどう死んだのか覚えていない。  だけど、苦しんでいたことは分かった。  暗闇の中で叫んだ言葉が脳裏に焼き付いていたから。
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